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不登校と向き合い成長していった子どもたちの物語 13 N君が不登校にならなかった理由
N君は無口な男だった。
中2から高3まで塾に通ってくれたが、
最初の1年間、N君の声を聞いた記憶がない。
N君が問いに対して、かすかに首を5ミリほど前に動かすと「Yes」、
微妙に首をかしげるしぐさをすると「?」を意味する(と私は解釈していた)。
そんな無言のジェスチャーでコミュニケーションしていた。
そんなN君、学校では、
授業が始まると即「寝落ち」。
とにかく、8割くらいの時間は寝ていたらしい。
ただ、シャーペンを握ったまま、まるで、教科書を読んでいるかのような姿勢のまま寝ていたので、
割とばれなかったらしいが。
そんなN君も受験生になり、
行きたい大学ができた。
一般推薦で受けることにしたので、
めったにしゃべらないN君が自ら職員室へ出向き、
担任の先生に「内申書ください」とお願いした。
しかし、「今日は忙しい」「明日また来い」「来週には作っておく」「今手が離せない」etc.
職員室へもらいに行くN君をのらりくらりとかわし、
一向に先生が書いてくれない。
しびれをきらしたお母さんが電話をしたが、
それでも効果なし。
そんなこんなで、
ついに今日願書提出の締め切りという日になった。
「先生どうしましょう」とお母さんが泣きながら言うので、
「お父さんの出番じゃないですか」とお答えした。
理由はわからないが、
先生が女子供を完全になめきっているので仕方がない。
実は、N君の無口はお父さん譲りで、
お父さんも寡黙で人と争ったり何かを主張したり絶対しないタイプだったが、
息子の一大事だ。
職場の昼休みにユニフォームを着たまま、
N君のお父さんは学校へ。
緊張のあまり、なぜだか手には職場のスリッパをにぎりしめていた。
そのままの格好で職員室へ。
担任の先生はお父さんの姿を見ると血相を変え、
別室に引っ込んだ。
おそらく、急いで内申書を書いていたのだろう。
15分後、
内申書10通が発行された。
「手に持ったスリッパを投げられると思われたんじゃないでしょうか?」
後日お母さんが報告してくれた。
ちなみに、
お父さんの着ていたユニフォームは白衣で、
スリッパはお父さんの勤務先の病院の名前が入っていた。
自分の担任するクラスの生徒の受験を妨害して、
一体何の得があったのか、まったくもってわからないが、
学校というのはそういうことが起こるところだ。
・・・ということで、本日の結論:
学校ではあえて戦わず、寝て過ごすのも一つの方法だ。
アート英語学苑
海住さつきでした。
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